いわき〝食Labo〟プロジェクト
福島県いわき市「いわき6次化協議会」に支援金を助成
~“生産から食卓までの支援”をテーマに、「いわき〝食Labo〟プロジェクト」を応援~
日時:平成27年(2015年)2月24日(火)13:00~15:00
会場:いわき産業創造館 会議室1
 
 地震、津波、原発事故による風評被害。東日本大震災の発生で、福島県いわき市は二重三重の災害に見舞われた。
 地域の農業と食文化を守ろう―。野菜が廃棄された畑で出会った地元の農業生産者と料理人が模索と挑戦を始めた。そして、その活動に、農産物加工業者、マーケッター、デザイナーなど多くの方々が賛同。そこに、キリングループの「復興応援 キリン絆プロジェクト」がつながり、「いわき6次化協議会」が結成され、今後、いわきらしい農作物の加工品づくりとブランド化に取り組むことで、さらに一段の飛躍を目指すこととなった。
 
 平成27年(2015年)2月24日、いわき産業創造館で、「いわき6次化協議会」の今後の事業方針発表会が開催され、同時に、同協議会がこれから取り組みを始める「いわき〝食Labo〟プロジェクト」に対する「復興応援 キリン絆プロジェクト 農業支援」の贈呈式が行われた。「いわき〝食Labo〟プロジェクト」 は、出荷単位や単価の点から個々の生産者では難しかった小ロッドでの加工品開発を、いわきならではの農産物や水産物を使って共同で行い、販路の拡大やブランドの確立とともに、次世代へ繋がっていく6次化のモデルづくりに取り組んでいこうとするものである。「これまでなかった商品をつくりたい」「大企業に負けない味を」と、いわきの若者たちの挑戦は、今、新しいステージへ進もうとしている。
1. いわき6次化協議会 事業方針発表会
 
《主催者挨拶》
いわき6次化協議会
 いわき市では、震災以前から様々な農業問題がありました。農業者の高齢化問題、それに伴う耕作地の放棄問題、後継者不足などです。そんな中で震災があり、原発問題が発生し、いわきの農林水産業は一気に窮地に追い込まれました。
 事実は事実として受け入れ、私たち生産者や料理人は、いわきの1次産業をどうしようか、話し合いを始めました。
 震災直後は、何をすればいいのか何も分かりませんでした。手探りのまま、私たちは行政とともに、がむしゃらにイベントや販売活動を続けてきました。
 そんな中、私たちは6次化商品の開発に力を入れてまいりました。単に商品化するだけでなく「売れる商品にするにはどうするのか」を考え、生産者、料理人、デザイナー、ウェブを得意とする者などが意見や考えをぶつけ合って来ました。
 そして、きょう、多大なご支援をいただけることとなり、新しいステージに挑戦できるチャンスを得ることができました。たいへん嬉しく、心強く感じています。
 今後とも、いわき市の農業生産者、そして仲間たちへの応援をよろしくお願いいたします。
《ご来賓挨拶》
いわき市長 清水 敏夫 様
 震災からもう間もなく4年。いわき市は、地震と津波と原発事故という、人類が経験したことのない複合災害に見舞われました。
 さらに、「福島の農作物は買えない」という風評、いえ、実害に遭いました。農林水産業に携わる方々にとっては、たいへんな苦労の日々でありました。
 そんな嵐の中で、いわき市の若い人たちが立ち上がり「できることはやってみよう」というネットワークを築き、様々な活動を展開してまいりました。
 市としても、消費者を説得するのでなく、ありのままのいわき市の姿を見てもらおうと、市役所に「見せる課」という部署を設け、放射線測定検査の結果などを正しい情報として、全国に発信し、いわきの農林水産物の安全性を理解していただく「いわき見える化プロジェクト」という取り組みを開始しております。
 今回、6次化を目指す若いグループに、大きな支援をいただけること、地元の首長としてたいへん嬉しく思います。若い人たちのチャレンジを市といたしましても全面的にサポートしていきたいと思っております。
 たくさんの絆が芽生え、ますます結ばれていきますよう、願っております。
《本事業のはじまりについて》
 まず、いわき6次化協議会の事業、「いわき〝食Labo〟プロジェクト」の始まりについて説明させていただきます。
 2011年夏、私は、風評被害で売れずに廃棄された野菜をたくさん見ました。汚染とか、出来が悪いせいではなく、風評被害によって捨てられた野菜です。
 市内の畑地を巡る中で、地元の若手農家さんと出会いました。
 私たちは「このままではいわきの農業が、食文化が消えてしまう」という危機感を共有し、情報や意見を交換しあい、朝から晩まで、何度も携帯電話で連絡を取り合いました。
 そして、「野菜を廃棄せず、1年間の賞味期限を持たせた商品を開発し、それを販売する新しい手だてが必要だ」と一致しました。1年間というのは、次の収穫シーズンまでという意味です。
 そして、捨てられるはずだった野菜を使って加工食品を作り始めました。最初に完成したのが、摘果(効率よく育てるため間引きされた実)されたトマトの青い実を使った「青トマトのコンフィチュール」です。
 通常は、摘果すればそのまま捨てるのですが、西洋のグーズベリー(和名:セイヨウスグリ)に似た味わいがあり、私は、畑の中に宝物を発見した思いでした。
 完成後、ぜひこれを販売したいという話になり、私の店の厨房を加工施設として改装し、生産を開始したのです。
 
 それからきょうまでに「焼きネギドレッシング」をはじめ、「にんじんドレッシング」「なめこドレッシング」などを開発いたしました。「焼きネギドレッシング」はここで生まれた代表的な商品で、年間に3,000本あまり売れています。
 また、いわき産の野菜を使ったスムージー「HYACCI」も昨春から「Vege Café」という店舗で提供しています。
 一方で、保健所の許可の問題で製造できる品目が限定されること、加工場の機械の製造能力の限界、売るためのパッケージデザイン・・・などの課題もあります。しかし、個人が作ったものを6次化協議会の皆が力を合わせて販売していく。一人ではできないことを皆でやる。「いわき〝食Labo〟プロジェクト」はそういう事業です。
 6次化のメリットを、私たちは次のように考えます。
・1次産業における作物生産量や収穫量は天候に大きく左右され、収入が不安定ですが、6次化することで、これを安定化することができます。
・いわきの農産物をブランド化でき、全国に販売することが可能になります。雇用も生まれ、他地域の同じ種類の野菜との差別化もできます。
これらのメリットを実現するべく、これから皆で力を合わせて頑張っていきます。
《事業の具体的構想について》
 つづいて、具体的な事業構想についてお話しさせていただきます。
 本事業の主旨は「柔軟な変容性」です。
 多くの6次化商品は、製品が完成したときがゴール。でも、これでは企画・製造を開始した時点の消費者マーケティングに商品を固定してしまい、嗜好や食文化の変化・流動性に対応できません。
 私たちの事業は「商品化がスタート」です。もちろん企画を詰めて開発しますが、まず商品を開発。仲間に農業生産者がいるので、ひとつ開発すれば、材料となる野菜のバリエーションは豊富です。
 活動を続けてきた中で、さまざまな職業の方々が仲間に加わりました。情報収集のプロはマーケティングを、企画のプロはプランニングを担当します。
 予定商品では、無添加・高品質で、情報感度の高い女性やおみやげニーズをターゲットとした「いわきのドレッシングソース」があります。農家での直売、市内での販売、また業務用として市内外の飲食店舗へ卸します。多くの農家が参加できる「ALLいわき」の枠組みでバリエーション展開いたします。
 さらに、メヒカリ、イワシ、サンマ、サバ、そして、にんにく、オリーブ、トマトといった、海と山の恵みがコラボした商品も企画しています。
 多くの素材と開発技術の確立により、嗜好や食文化の変化に対応したバリエーション展開が可能と考えます。
2. 復興応援 キリン絆プロジェクト 農業支援 贈呈式
 
《主催者挨拶》
キリンビールマーケティング株式会社 福島支社長 椎屋 直孝
 震災以降、農業従事者の皆様とお付き合いさせていただき、きょうご出席の皆様とも何度も夜遅くまで楽しい会をご一緒させていただきました。
 そんな中で、いつも皆さんは、いわきのこと、農業のことを熱く語り、仲間と一緒に何かをつくろうという思いがみなぎっているのを感じました。
 そしてまた、きょうのようにお話が具体化し、いわきのこと、子どもたちの未来について一緒に考えていけることを嬉しく思い、また、微力ながらも福島を応援できることに誇りを感じております。
 いわき市の若い方は「ふるさとに残る」という思いがとても強いと感じています。そんな皆さんの熱い思いを受けながら、私たちももっと頑張らなければと思っているところです。
 私どもも福島産の梨を使った商品を販売させていただきました。震災や原発事故を風化させず、福島のおいしさを伝えていきたいという思いに、全国からも応援の思いが届けられました。3月3日にはネーミングの中に「福島産 桃」と入れた新商品も販売いたします。
 6次化協議会の皆さんの商品も、福島産農産物は安全・安心でおいしいと、伝えられていくものでありますよう願っております。
公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長 髙橋 陽子
 「復興応援キリン絆プロジェクト 農業支援」も3年目を迎え、農業の復興を応援するという絆が、だんだん太くなっているのを感じます。いわき市の農産品を使い、いわき市の地域ブランドの創出と6次化商品を開発するという、骨太で覚悟ある取り組みが、ますます前へと進められてまいりますようにと思っております。
 本日ご出席のメンバーの皆様からは、仕事人としての誇りと熱い思いが伝わってまいりまして、感動しております。
 福島県は、地震と津波と原発事故という複合的な試練を受けました。キリンビール様の支援と、皆様の熱い思いにより、大きな実が結ばれますよう願っています。
 生産者とシェフ、そして様々な分野の方々のお力で、いわき発、福島発の物産が、広く日本へ、世界へと発信されてまいりますよう、皆様の心意気を見せていただきたいと思います。
《今回の贈呈内容についての説明》
キリン株式会社 CSV推進部 キリン絆プロジェクトリーダー 野田 哲也
 農業の復興支援につきましては、復興支援第1ステージとして、2011年から2012年まで、岩手県、宮城県、福島県の農家に対し、稼働していない中古農業機械のリユースなどを、JAグループと連携して進めてまいりました。
 2013年からは復興支援第2ステージとして「生産から食卓までの支援」というテーマのもと、生産支援だけでなく農産物のブランド育成支援、6次産業化へ向けた販路拡大支援、担い手やリーダー育成支援などを展開しております。
 今回は、震災によって大きな被害を受けた福島県いわき市において、農産物や加工品のブランド育成と6次産業化による販路拡大を図る目的で、地元の農業生産者、料理人、加工・販売者等が協同で取り組む「いわき6次化協議会」の「いわき〝食Labo〟プロジェクト」に対する総額3,000万円の助成になります。今回の助成は、同プロジェクトにおける加工施設、新商品開発、ブランド育成、情報発信などに活用されます。
《受贈者代表挨拶》
いわき6次化協議会
 いわき市は、復興の途中にあります。また、農業従事者の高齢化、担い手不足、就業意欲の減退など課題も顕在しています。
 一方で「いわき見える化プロジェクト」を中心に、農業の復興に向けた自発的な取り組みも始まっています。
 私たち生産者、料理人、飲食店など、いわきの食に関わる皆が一体となって進めております「いわき〝食Labo〟プロジェクト」に対して、キリングループ様からご支援をいただきましたこと、心より御礼を申し上げます。
 このプロジェクトを契機に、いわきが誇れる高品質な6次化商品の開発と、いわきと福島の食の復興とブランド化を進め、風評の払拭と次世代の一次産業を牽引するロールモデルを自分たちが作れるよう、関係者一丸となって取り組んでいきたいと考えております。
《激励の挨拶》
福島県 いわき農林事務所 所長 松本 登 様
 若い方々がネットワークを形成し、6次化商品の開発やPRに地域で取り組むプロジェクトが高く評価され、このたびキリン絆プロジェクトの支援を受けられますことは、地域振興に関わる県といたしましても嬉しい限りです。
 小ロッドでの加工品開発や生産が可能となる「いわき〝食Labo〟プロジェクト」が立ち上がり、高品質な6次化商品が売り出されることは、元気な地域づくりと一次産業の魅力創出に向けての大きな一歩になるものと期待を寄せています。
 風評被害の影響は続き、農林水産資源を基盤とする産業はなお厳しい状況のままです。本県では「力強い農林水産業の再生」に向けて、きめ細やかな放射性物質検査、意欲ある担い手の育成、先端技術の導入による生産体制強化、国内外への正確な情報の発信などで、「福島ブランドの再興」を目指します。
 また、本年(2015年)1月には「新たな福島・地域産業6次化戦略」を策定し、6次化による地域活性や所得向上をより一層推進してまいります。
 「いわき〝食Labo〟プロジェクト」が、いわき地区の復興再生を強力に牽引し、新生ふくしまの実現に大きく寄与されますことをご期待申し上げます。
キリン株式会社 執行役員CSV推進部長 林田 昌也
 本日、皆様のお話しを伺いまして、強く感じたことが3点ございます。
 1つ目は、生産者と料理人と加工業者という縦の連携だけでなく、企画やマーケティングなどの関係の方々が集い、新しい動きを始めようとしていること。いわば6次連携による6次産業のような、多彩なメンバーの集合体であることに感銘を受けました。
 2つ目は、「見せる化プロジェクト」です。行政と民間の皆さんが最初からタッグを組み、同じ課題に向かって努力を共にして、それが非常にうまくいっていると感じました。
 3つ目は、皆さんの「福島」や「いわき」という大地への誇りと愛を感じることです。食を通じて大地へのプライドとアイデンティティを作っていこうという、そんな大きな思いがとても強く感じらます。
 地域の食文化や食産業の復興支援は「キリン絆プロジェクト」の大きな眼目であります。微力ではございますが、我々も、引き続きご支援を継続させていただきますことを、お誓い申し上げます。
《インタビュー点描》
いわき6次化協議会 副会長 萩 春朋 様
 今回いただいたご支援では、加工品を真空化できるミキサーを導入する予定です。ドレッシングの中の酸素を抜くことができます。酸化せず、長期保存が可能となります。
 ドレッシングは小さな設備でも作れますが、私たちはこの機械を使って、酸化しない、今までどこにもなかったドレッシングを作りたい。10人ほどの生産者の作物を使った、それぞれのドレッシングです。
 いわきは、トマトとネギの生産量が多い。私たちの財産でもあります。また、豊かな海産物もある。開発予定商品の「いわきサーディン」は、トマトとネギを使ったオイルと海の幸を材料に、単なる6次化商品でない、大手企業に負けない商品を作りたいと思っています。
 いわきの生産者はこの4年間、必死でした。一人ひとりが個性を発揮し、素材にもまた個性があります。例えばおみやげ品は、その土地で生まれた個性。その土地へ出掛け、その土地で味わい、買って帰る。6次化もひとくくりではなく、そんな個性を買っていただく。加工品なら持ち帰りもできる。おみやげって漢字で書くと「お土産」です。
 作物をその土地の料理人が守らないと食文化は消えてしまう。今回のプロジェクトは、生産、料理、販売、PR・・・のプロたちの出会いでもあります。そんな地産地消のグループが全国にできて、それがまたSNSなどでも結び合っていけたら、すごいなって思います。
いわき6次化協議会 副会長 池端 達郎 様
 私のオフィスは販売促進をする会社です。生産者が加工から販売まで行うというのはやはり限界があります。販売にはノウハウもあるしルートの確保も必要。私の東京オフィス、そして福島県やいわき市の東京事務所と一緒に加工品を販売する活動を行っています。
 震災前から物産展は行っていましたが、震災後、消費者のお顔を見ながら販売するときに感じのるは「福島=原発」という固定のイメージをお持ちなのかなということ。福島の物産展には入りにくそうです。
 震災後の物産展では、その場で味わっていただくことが大切と思いました。萩さんと知り合えて、プロの方の味付けを気軽にお試しいただけるのは大きい効果です。
 風評もあって、なかなか広くアピールしにくいのが現状ではありますが、でも、誰かがやらなければならない。そういう点でも、「同じ食卓を囲む仲間」であるキリンビールさんからご支援がいただけたということは、とても心強く感じています。
いわき6次化協議会 役員 吉野 康平 様
 生産者さんの思いを皿の上に表現できること、そして、食でいわきを盛り上げられるというのは、料理人として最高に幸せです。
 地元の生産者やシェフの萩さんと出会って、いわきの野菜を使った中華料理を作り始めました。震災後は風評もあって、正直、県外の材料を使ったりしていましたが、地元の生産者さんの思いを聞かされて、僕も頑張らなければと思いました。目標というかテーマが見つかった気持ちです。
 だから私の料理も変わりました。今、私の店では、いわき野菜を使ったおすすめ料理を、毎日4品提供しています。お客様から好評をいただき、それがお目当てという方もいらっしゃいます。
 今では畑に行けばレシピを思いついたりもします。部屋や厨房であれこれ考えるより、生産者の方からいちばんおいしい食べ方を聞いたり、旬を学んだりできる。やっていて楽しい。これからの広がりにもワクワクしています。
2015.02.24「いわき〝食Labo〟プロジェクト」おわり

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