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・これまでの贈呈先
社会に役立つ寄付を行なった人を顕彰する『まちかどのフィランソロピスト賞』。2000年度は、66件の推薦の中から、次のとおり贈呈先が決まりました。
贈呈式は、2000年9月21日(木)に学士会館(東京都千代田区)にて開催しました。
◆ まちかどのフィランソロピスト賞
永瀬 隆(ながせ たかし)さん
(岡山県倉敷市)
<贈呈理由>
 
永瀬隆氏は、第二次大戦で陸軍通訳を志願し、1943年9月、泰緬鉄道(たいめんてつどう)建設作戦要員として、(現在のタイ国にある)カンチャナブリ憲兵分隊に出向勤務を命ぜられ、捕虜の思想動向などの情報収集、防諜任務に当たり、敗戦。戦後、連合軍命令で戦争墓地委員会の通訳となり、墓地捜索隊とともに文字どおり、ジャングルの草の根を分け、朽ち果てた十字架を目印に3週間にわたり捕虜の遺体探しに協力。この時目撃した悲惨な状況に、必ず巡礼に戻ろうと決意。また、日本兵が帰還船にて祖国へ出発の際、タイ国政府は、敗戦国日本に帰る兵士が満足な食料も口にすることが出来ないだろうと、13万人の兵士各人に、飯盒一杯の米と当時貴重品であった砂糖を寄贈してくれた。このご恩は決して忘れてはならぬ、いつか必ず恩返しをしたいと心に誓った。この、タイ国政府の温情が、永瀬氏のその後のフィランソロピー人生を決定づけるものとなった。
 
帰国後、岡山県倉敷市で青山英語学院を経営した。生徒数500名を超え、経営も安定してきた1968年、連合軍兵士の眠るカンチャナブリを訪れ、連合軍墓地の十字架に深く頭を垂れた。そのとき、それまでの心のわだかまりがすっと消え去ったという実感を得、その帰途、日本大使館に立ち寄り、タイ人留学生2名の受け入れを約束。氏の「飯盒一杯のお米」への恩返しが始まった。その後20年間、約30名の留学生の世話を続け、1986年、連合軍兵士のためにクワイ河平和寺院を建立、同12月には、貧しい家庭や少数民族の子どもたちへの援助活動を安定的に継続するため、クワイ河平和基金を設立し、小・中・高・看護学生に奨学金の授与を続けている。また、1997年より、クワイ河医療診断所を設立、カンチャナブリ県の過疎地域で巡回診療事業を実施。2000年には、高価な眼鏡が買えない同県の人々に、岡山・香川県内の企業や市民の協力で眼鏡を集め、視力測定、検診も行いながら、2,500名に寄贈した。この時、立派な看護婦になった奨学生がボランティアとして手伝いに来てくれ、永瀬氏を感激させた。
 
こうして、永瀬氏が撒いた種は国内外で広がり、平和の心、人を愛する心が育っていっている。本年(2000年)6月には、日本兵のために念仏堂「クンユワム星露院」を建立。同時に老人ホームも建設・寄贈した。永瀬氏のフィランソロピー総額は、35年間で約7,000万円に達する。
 
永瀬氏は、「死の鉄道建設」といわれた泰緬鉄道建設にまつわる悲惨な出来事を、通訳という微妙な立場に立たされながらつぶさに見てきた数少ない証人の一人であるが、犠牲者への消しがたい追悼の思い、タイ政府から受けた恩情への感謝が、氏の活動を支える原動力である。
 
永瀬氏のフィランソロピー活動は、まさに敵・味方を超え、人種を超えて深い人間愛(phil-anthropos)からわき出た発露であり、20世紀最後の年、新しい世紀を迎えるにあたり、普遍的な人間愛のあり方を私たち一人ひとりに示したものとして、2000年度の『第3回まちかどのフィランソロピスト賞』にふさわしいものである。
【泰緬鉄道】日本陸軍によって第二次大戦中に建設された、タイ(泰)と当時のビルマ(緬/現在のミャンマー)を結ぶ鉄道。
◆ 特別賞
白石 啓文(しらいし ひろふみ)さん
(故人)
<贈呈理由>
 
白石啓文氏は1924年(大正13年)東京市赤坂区に生まれ、1946年(昭和21年)から神奈川県横浜市南区に49年間住み続け、1995年(平成7年)に永眠。享年71歳。
大手電機メーカー東芝に技術者として勤務し、蛍光灯の発明考案に積極的に取り組んだ。紫外線の出ない蛍光ランプ『TOSHIBA 100V 17W メロウルック50Hz』など数多くの発明の功績により手に入った特許料などを長年貯蓄した遺産約3億2,000万円を、親族が同氏の死後知り、「全額を社会公益のために」と歳末助け合いのほか、同氏がこよなく愛した横浜市南区の社会福祉協議会等に寄付した。
 
生前の氏は幼いころから成績優秀・品行方正かつ母親思いの息子であり、いつも母親が喜んでくれるように仕えた。衣食住についてはとても質素で倹約家で、服は穴が開けばそのほころびを縫い、大切に使っていた。新調することはほとんどなく、親類から贈られた衣類や寝具も手をつけなかった。また、生涯独身であった白石氏を気遣い、近所の人々が食事のおかずなどを持ってきても「お返しができないので」と、丁重に断り、容易に受け取らなかったなど、真面目で頑固な一面を思わせるエピソードも。
 
そして自分の能力を磨きながら、その技術が社会のために役立つことを願い、いつも研究熱心に仕事に取り組んでいた。ところが、40歳から50歳にかけてスモン病にかかり入院。ここで以前から病気がちであった最愛の母と同じ病院のベッドで過ごすことになる。このとき、これまでの研究の集大成として、論文をまとめることを決意。病気による手足のしびれと闘いながらの作業は、およそ1年の時間を要したが、この機を逃すと論文はできないという危機感があった。その結果、大阪大学から理学博士号を受ける。48歳の快挙であった。
 
寄付にあてた遺産は、こうした日々のなかで白石氏が長年かけて貯蓄したもので、正式な遺言はなかったものの、常々「お世話になった南区のために役立つように」と話していた白石氏の遺志をうけ、親族が遺産の一切を寄付した。
 
白石氏のフィランソロピーへの動機・思想は今となっては明らかにはできないが、親兄弟の間柄でさえ、遺産相続争いなど諸々のいさかいが絶えない昨今、ただ、故人の意志を尊重しようと、社会のために寄付を厭わない親族の姿は、社会に役立つために日々過ごしてきた生前の白石氏の面影さえ感じ取ることのできるものでもあり、それらを含めて特別賞にふさわしいと思われる。
◆ 贈呈式
日時:
2000年9月21日(木)17:00~19:00(開場16:00)
会場:
学士会館 3階302号室
<所在地> 東京都千代田区神田錦町3-28
<最寄駅> 都営地下鉄三田線、新宿線、営団地下鉄半蔵門線「神保町駅」A9出口徒歩1分
プログラム:
17:00~17:45 贈呈式
 ・まちかどのフィランソロピスト賞、特別賞 贈呈
 ・来賓ごあいさつ
菅波 茂 氏(AMDA代表理事)
Pisan Manawapapat 氏(駐日タイ王国大使館 公使)
17:45~19:00 懇親会
 
第3回 まちかどのフィランソロピスト賞 実施要項
趣旨
まちかどのフィランソロピスト賞は、「人と企業の社会貢献活動」を推進している、社団法人日本フィランソロピー協会と、国立総合研究大学院大学を拠点にフィランソロピー(社会的に有用な寄付やボランティア)の総合的研究を進めている「NPO研究スコープ・プロジェクト」とによって社会に役立つ寄付を行なった人を顕彰するために、1997年(平成9年)に創設されました。
 
日本ではキリスト教の伝統がないから、寄付の文化が育たないとよく言われています。また、寄付にはよからぬ意図があるものだという暗いイメージが付きまとうこともあります。しかし、世の中には、真にフィランソロピーと呼ぶべき、隠されたストーリーのある寄付が少なくありません。ただ、残念なことにわが国ではこうした寄付の事例をほとんどつかめないのが実状です。本賞は、私財を社会に役立てた人を顕彰するとともに、賞を通じてフィランソロピストを広く紹介し、日本に寄付文化を醸成していくことを目的としています。
対象
・社会のために私財を投じた個人またはグループ(金額の多寡は問いません)。
他薦に限ります
・推薦者の資格は問いません。
ご応募

・当協会所定の推薦書用紙にご記入の上、下記事務局へご送付ください。
・締切:2000年1月31日(月)
選考
《選考方法》
 ・書類審査および訪問審査(ヒアリング)
 
《選考基準》
 ・次のいずれかを満たすもので、寄付額を競うものではありません。
  (1)フィランソロピー(人類愛)にふさわしい寄付であるもの。
  (2)社会のために大変役立っているもの。
  (3)寄付にあたって、人々を感動させるようなエピソードをもつもの。
 
《選考委員》
委員長
出口 正之
総合研究大学院大学教授、NPO研究スコーププロジェクト長
 
佐々木幹郎
詩人
 
鷲田 清一
大阪大学文学部教授
 
林 雄二郎
財団法人日本財団 顧問
 
荒牧 誠也
関西電力株式会社
 
井上小太郎
住友生命保険相互会社
 
清水あつ子
富士ゼロックス株式会社
 
西野 正浩
株式会社 資生堂
 
野本 勲
東京電力株式会社
 
髙橋 陽子
社団法人日本フィランソロピー協会 常務理事・事務局長
表彰
《贈呈品》
 ・『まちかどのフィランソロピスト賞』(1名)に賞状と記念品を贈呈します。(賞金はありません)
 
《贈呈式》
 ・2000年9月に学士会館(東京都千代田区)にて開催します。
事務局
《ご応募書類お送り先・お問い合わせ先》
  社団法人日本フィランソロピー協会
  『まちかどのフィランソロピスト賞』事務局
  担当:佐々木理代(ささき りよ)
 
  〒106-0041 東京都港区麻布台2-3-8 丸山ビル7階
  TEL: 03-3568-3241--FAX: 03-3568-3245
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社団法人 日本フィランソロピー協会
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