「半ドン」が新しい教育スタイルを創造するか
「半ドン」という言葉を、ご存知ですか。
週休2日制が導入される前は、官公庁や公立学校では「土曜日は半日だけ勤務」と言う形態をとっていました。朝、普通に出勤し昼間まで仕事を行い、午後は休みという勤務の形態です。公立の学校も同様で、普通に登校し、授業は午前中だけで給食を食べず下校しました。土曜日は、お弁当を持参し午後の部活動に臨んだ中学校生活を送った読者の方も多いのではないでしょうか。
主体の捉え方の違いからでしょうか、官公庁や企業は「週休2日制」と言いますが、学校は「学校週5日制」とされています。この学校週5日制は、平成4年(1992年)9月から月1回、平成7年(1995年)4月からは月2回という形で段階的に実施してきました。平成14年(2002年)4月から完全学校週5日制となり、土曜日が完全に週休日となりました。それから十年が過ぎ、来年度(2014年度)から土曜日の授業、つまり「半ドン」が復活の兆しとなっています。学校週5日制の目的は、文部科学省のホームページで「学校、家庭、地域社会の役割を明確にし、それぞれが協力して豊かな社会体験や自然体験などの様々な活動の機会を子どもたちに提供し、自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などの「生きる力」を育むこと」と記されています。
その検証が十分なされないまま、土曜日授業が復活されます。
土曜日授業の復活の背景は、学力の低下が大きな要因として挙げられるでしょう。OECD(経済協力開発機構)のPISA調査(日本では高校1年生を対象としたテスト)で、日本の学力低下が浮き彫りになりました。多くのマスコミがこのことを取り上げ、「ゆとり教育」の結果に因果関係を求めました。つまり「ゆとり教育=学校週5日制度」の構図に物申すというシナリオです。しかし、学校週5日制の目的は、学校・家庭・地域が連携して社会体験や自然体験を提供することですから、土曜日授業に平日同様の授業を充てることは、本来の目的とは少し外れてしまいます。この論議がされないまま、来年度実施に踏み込んだ文部科学省は、縛りをかけて全国で同一の実施とはしませんでした。各都道府県に実施方法、内容が委ねられています。東京都では、各区市町村教育委員会に委ねられると予想されます。となると、各自治体の実態に合わせた土曜日授業が可能となります。多くは、月1回か2回の実施と推測されます。
つまり、学力向上を目指すという国民的願いを実現するため「ゆとり教育」に代表される学校週5日制を見直すのが、土曜日授業です。しかし、学校週5日制の検証がなされないままの導入に、文部科学省は地方自治に委ねた形となりました。私は、地方自治に委ねられたことは、教育改革の大きなチャンスと捉えています。何故なら、自治体の児童生徒の実態に合わせた教育活動が展開できるからです。国内の学力テストの結果から学力向上を、自治体を上げて望むのであれば補習重視の授業も可能でしょう。地域防災などの地域自治を活性化させるのであれば、地域と連携した体験的な防災教育の実践も可能となります。また、オリンピック・パラリンピック開催に向けた地域人材を活用した国際理解、奉仕活動の取り組みも可能となります。いずれにしましても、平日に取り組まれている座学の認知学習を打破し、体験的なダイナミックな非認知学習を可能にするのが、この土曜日授業だと思います。
少子高齢化、東日本大震災以降問われる地域の絆、家庭・地域力の回復などの社会ニーズに、一石を投じられるのがこの土曜日授業だと思います。この土曜日授業の取り組みが、新たな教育スタイルを生み出すかもしれません。また、ダイナミックな土曜日授業が結果的に学力向上にも帰結するものと確信します。
ただ、残る課題は、教員の多忙感。いくら、家庭・地域と連携して・・・と言われても、新しい教育活動に取り組むわけですので、当面は教員が主導です。土曜日週休に慣れた教員の新たな土曜日に対する多忙感、そして、勤務時間の増加という課題はクローズアップされそうです。勤務に関する法整備が必要ですが、これも自治体任せという厳しい現実の中、来春から「半ドン」が始動します。今後、注視される「半ドン」に間違いありません。
当協会機関誌『フィランソロピー』No.359/2013年12月号 に掲載