教育という満員電車に「英語」が乗り込む
「半ドン」という言葉を、ご存知ですか。
昨年(2013年)の重大ニュースと言えば、やはり、2020年の東京オリンピック・バラリンピックの東京開催決定が挙げられます。これから開催までの6年間、開催地である東京は昭和時代に開催された時のように、環境整備の加速化が推察されます。我々義務教育に携わる者としましては、トップアスリートの育成も一面ではありますが、外国人を招き入れる「おもてなし」としてボランティア活動の推進や英語力の強化があります。
昨年(2013年)10月に文部科学省が、現在、5、6年生に実施している小学校外国語活動を、2020年度に教科としての英語科に変えることを発表しました。外国語活動と英語科の違いは、保護者や一般の方に十分理解されているとは思えません。英語という教科になれば、当然、教科書があり学習内容の理解についての評価があります。現状の外国語活動は、教科書はなくあくまでも活動が中心です。換言すれば、言語四領域「聞く・話す・読む・書く」のうち、「聞く・話す」の二領域を中心にゲームや身体活動・歌などを通して、外国語を体験し慣れ親しむことを目的としています。今回の文部科学省の発表では、現在実施している外国語活動を、2018年度から3、4年生に実施し、その児童が5、6年生になる2020年度から、週3時間の教科としての英語を実施することとしました。折しも、東京オリンピック開催年でありまして、外国語教育としては遅ればせながらの諸外国への発信になるかと思います。
日本の英語教育はご承知の通り、近隣諸外国と比較しても遅れている現状があります。私見ではありますが、日本の歴史と島国という環境が、英語教育導入のプロセスに大きな影響を与えていると考えます。元来、島国と言う条件から、単一民族に近い環境下で使用言語もほぼ単一で歴史が流れています。中世以降、西洋文化の導入とともに外国語が入ってきましたが、直接、外国人と触れることは希なことであり、書物を通し外国語との接触が多くありました。ですから、言語獲得のプロセスである四領域の「聞く・話す」より、書物を「読む」書簡を「書く」という領域が先行したのは容易に考えられます。ましてや、200年以上の鎖国というトンネルがあったわけですから、外国語習得は「読み・書き」が先行
していました。その名残が、長年続いた中学校英語の「This is a pen.」に象徴されます。戦後の高度経済成長下では、英語力の重要性は十分認識されていましたが、内需の成長故、国外に就職を求める必要も低かったわけで、近隣諸外国との差異の岐路となったと思います。
高度情報技術の進展に伴い、オンタイムのグローバルな活動と可能となった今、全ての活動においてプラットホームとしての英語力の必要性が国策レベルで認識されました。これは、教育界において狭義の開国と言えると思います。方針は打ち出されましたが、実施に向けての課題は山積です。週3時間の英語科が導入されるということは、他教科が3時間減るのか、週の授業時間数が3時間増えるのかという命題があります。また、教科指導となると教員免許の問題が浮上します。現在、公立小学校で教壇に立っている教員は、小学校全科免許であり、教員養成大学で「英語科」を習得していない教員です。当然、実施にあたっては、専科教員の確保、講師補充という人的施策が急務となります。いずれにしましても、オリンピック開催時に子どもたちが外国人と笑顔でコミュニケーションをとる姿には、まだまだハードルは高いようですが、学校教育に求められている責務は大きなものがあります。
正月の新聞に、よく教育に関係する記事がシリーズ掲載されています。ことしの新聞記事では、「土曜授業」「英語教育の強化」「道徳の教科化」が報道されていました。我々現場では、3年前の福島原発による「放射線量」、2年前の自死による「いじめ対応」「体罰防止」、そして昨年度来、喫緊の課題となった「アレルギー対応」と、教育課題は山積です。当然、教育の根幹である「学力向上」や「体力向上」、急増する発達障害への取り組みも挙げられます。某新聞に「何でも背負い込んできた日本の学校教育が疲弊し限界を迎えている。解決するには、学校以外の学びの場を公教育に参入していくしかない・・・」と記されていました、同感です。私は、「満員電車における、詰め込めばまだまだ乗れる状態」を想像します。学校にも施設環境という、血の通った教員というキャパシティーがあることを発信したいと思います。いつしか、満員電車が転覆する前に事故を起こす前に、教育に関する環境整備、法整備が急務だと思っています。多大なリスクを犯してからの教育改革に成らないことを願っています。とは言え、日々の教育活動の推進、新年度に向けた教育課程編成と、大局を語れるような現状ではないことも事実です。せめて、我々、教員各々が情報を共有して連携し協力し合って、ことしも健康で職務を遂行し、次世代を担う子どもたちの健やかな成長に尽力したいと思うのが、教育現場であります。
当協会機関誌『フィランソロピー』No.360/2014年2月号 に掲載