今度は、本格的に英語導入か……
文部科学省は、昨年(2013年)末に「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を発表しました。概要は、2020年度から、現在実施されている小学校高学年(5・6年生)の「聞く・話す」の活動中心の外国語活動を小学校中学年(3・4年生)に引き下げて実施し、高学年には新たに週3時間程度の教科としての英語が始まります。教科として始まるからには、指導者の教員免許状と評価・評定の課題が浮上します。中学校では英語で授業を行うことを基本とし、高等学校では言語活動を高度化し英検2級から準1級をアウトプットとしていることから、更なる実践英語力が求められます。
現行の学習指導要領(平成21年度/2009年度)改訂作業では、外国語活動ではなく教科としての小学校英語の導入も話題に上がりましたが、時期早々と判断され教科ではなく外国語活動として導入されました。しかし、その後の科学技術の進展、グローバル化の進行は従前のスピードとは比較にならないもので、この10年間の日本と東アジア諸国における英語教育の格差は、より一層大きくなったと言わざるを得ません。
実現までの課題は、指導者の問題、指導と評価の問題、授業時数の問題など山積していますが、今までの方針とは違い、今回は本腰を入れて取り組まなくてはならないと推測します。その背景の一点目は当然のことですが、現実社会の英語の必要性です。換言すれば、私企業が求める人材資質に英語力は欠かせません。現に、ブラック企業と称される上場会社でもTOEICのスコアを採用要件としています。日本国内に市場も生産ラインも期待できないのであれば、自ずと海外市場、海外生産拠点を考えることになります。現実、グローバル社会の共通語である英語力は必須です。では、公教育がグローバル社会に通用する人材を輩出しているのか。公教育に携わる者として、明確に「NO」と答えるしかありません。
2点目の背景は、入試制度の動向です。私自身、中学校教諭、高等学校教諭と英語教育の小学校早期導入、中・高等学校の授業改善を議論する機会がありましたが、中・高等学校の教員問わず、返ってくる言葉は「いくら時代の流れに合わせても、入試がグラマー重視ですから…」と、入試対策を教育の目的としている現実があり「仕方がない」のオチに至ります。しかし、文部科学省もこの由々しき現実を踏まえ、TOEIC、TOEFL、英検のスコアがセンター試験に反映されることを打ち出しました。大変に画期的なことで「入試が変われば、授業が変わる」経典なのですが、実施が平成30年度(2018年度)以降というのは残念なことです。
いずれにしても、公教育の内側から学習指導要領に基づいて英語教育を推進するのではなく、リアルな社会のニーズに課せられた導入に至るタイムスケジュールが始動したことは、喜ばしいことだと思います。ちなみに、東京都教育委員会は、中学校の多くの若手英語教員を来年度から英語圏に3ヶ月の短期留学させることを決めました。2020年度のオリ・パラを視野に入れて、タクシードライバーも英会話研修を実施していることを考えると「公教育が変わらないでどうする…」です。東京オリンピック・パラリンピックで、メダリストが英語でインタビューに応える映像を夢見ている、私はそんな教育公務員の一人です。
当協会機関誌『フィランソロピー』No.361/2014年4月号 に掲載