学校現場の縦糸と横糸
学校現場では、4月のはじめを「学級開き」と呼びます。学級編成替えがあった場合、なかった場合、担任が同じ場合と替わった場合で違いはあります。多くの場合、自己紹介やクラスの目標決め、係決め、座席の決定、クラスのきまりの話し合いや確認などを行い、子どもたちが安心して日々の学校生活を送れるように、丁寧な時間を費やして取り組みます。
この時に、子どもたちは担任との関係性、子ども同士の関係性を築き始めます。担任と子どもとの関係性を縦糸と捉えると、子ども同士の関係性は横糸に例えられます。布地は「縦糸と横糸」の布目から成り立ち、一本の糸が縦方向と横方向に二元的に絡むことで線から面となります。線の状態では繋ぐことしかできませんが、面になることで包み込むこともできるようになり、対応の次元が高くなります。これが、学級経営です。
子どもたちが年度始めに「ワクワクする期待感」をもつのと同様に、われわれ教員も「ことしはこんな学級にしたい、こんな授業を進めたい」と期待感を膨らせます。新年度、2か月が過ぎ、各学級の縦糸と横糸からなる布地が、確実に良い形になる頃です。
最近は、この「縦糸と横糸」を子どもたちに培わせたい学力に例えることがあります。「縦糸」は、教科学習としての認知(認知スキル)です。日々の時間割にも表現されている、文部科学省の学習指導要領に則った、国語・算数等と称される教科です。この縦糸は、学校の教育活動の根幹をなすもので、授業として明確に位置づけられており、学期末には子どもたち、個々の評価も保護者に通知表として返しています。
対して「横糸」は、教科学習には分類、カテゴライズできない非認知(非認知スキル)です。これからの国際社会に生きる日本人には、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力が必要である等々の発信を、ここ数年見聞します。最近では、ファシリテーション能力も加えられています。カタカナ名からも、国際社会をイメージする能力ですが、これらは時間割には表出されません。しかし、これからの21世紀型スキルとして、注目され必要とされることは間違いありません。この非認知スキルは、縦糸の教科学習のように評価する行為も確立されていないのが現状ですが、確実にこれからの時代を生き抜く力としては、必要不可欠な力と認識いたします。
国際化の進行と科学技術の発展は、世界をオンタイムにしました。換言すれば、異なる文化を基盤にした考えが、同じステージに上がり議論される時代となりました。正解はなくとも納得する方向性を見出すのが、国際社会に生きる能力だと思います。その実現には、縦糸である教科学習の基盤に上に立つ、横糸である非認知スキルの獲得・向上も必須です。この双方の力が21世紀に生きる学力だと思います。
学級開きではなく学校開きとして、この21世紀型の学力を見据えたスタートには、今後のICT環境の整備に期待をしたいところです。
当協会機関誌『フィランソロピー』No.362/2014年6月号 に掲載