Date of Release:2021.12.1
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・日時:2021年10月21日(木)14:00~17:00
・会場:学士会館(東京都千代田区)とオンライン形式で同時開催
・プログラム:【開会に寄せて】浅野 史郎 公益社団法人日本フィランソロピー協会 会長
髙橋 陽子 公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長
【第1部】基調講演「これからの民主主義社会創造のために」
平野 啓一郎 さん 小説家
【第2部】パネルディスカッション「社会課題解決・新たな価値創造のために経済はどう貢献すべきか」
髙橋 陽子 公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長
平野 啓一郎 さん 小説家
<パネリスト>
熊野 英介 さん
熊野 英介さん
渋澤 健 さん
<ファシリテータ>
河口 眞理子 さん
熊野 英介 さん
熊野 英介さん
渋澤 健 さん
<ファシリテータ>
河口 眞理子 さん
<パネリスト>
アミタホールディングス株式会社代表取締役
公益財団法人信頼資本財団理事長
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
コモンズ投信株式会社
立教大学特任教授
不二製油グループ本社株式会社CEO 補佐
アミタホールディングス株式会社代表取締役
公益財団法人信頼資本財団理事長
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役
コモンズ投信株式会社
立教大学特任教授
不二製油グループ本社株式会社CEO 補佐
1991年公益社団法人日本フィランソロピー協会は、フィランソロピーの推進をスタートさせました。以来、公益活動を行政だけに依存することなく、一人ひとりの市民が主体的に考え、自らのできることで社会の課題解決のために参加・貢献することが、健全な民主主義社会を創るための基盤であるとの理念で事業を進めています。
2021年に30周年を迎えたことを記念し、シンポジウムを開催しましたので、その内容をご報告します。
開会に寄せて
浅野史郎
公益社団法人日本フィランソロピー協会 会長
公益社団法人日本フィランソロピー協会 会長
2005年に会長に就任しましたが、当時は名前も活動も知られていませんでした。多くの皆さんのおかげでさまざまなことを達成することができました。特にCSR(企業の社会的責任)の定着もそのひとつだと思います。フィランソロピーの最初の考え方は「寄付文化」です。これを確実に進め、日本の文化を変えたいと思います。また、障がい者福祉についても直接的な活動による支援を行なっています。障がい者は弱者ではなく、支援を必要としている人たちで、一人の人間としての尊厳を保つことが支援の目的です。これからも当協会の活動に、さらなるご理解ご協力をお願いいたします。
髙橋陽子
公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長
公益社団法人日本フィランソロピー協会 理事長
30年皆さんに支えていただきましたことに心より御礼申し上げます。「フィランソロピーは民主主義を創る上で不可欠である」との思いで活動してきました。基幹事業としてセミナーの開催と機関誌の発行を続けています。創刊号の
テーマは「気づき始めた男たち」、第2号は「子どもたちが危ない」でした。企業の変化はありますが、社会課題がより複雑化・複合化しています。その差を縮め、新しい価値をつくる。そして社会課題のの小さな兆しをキャッチし、企業や行政の方々につなぐことも役割だと思っています。微力だが、無力ではないと自らに言い聞かせ、子どもたちが生きる喜びや希望を持てるような社会を手渡すために、これからも尽力してまいります。
平野 啓一郎 さん
基調講演「これからの民主主義社会創造のために」
平野 啓一郎 さん
5年に一度のショパンコンクールで日本人が2位と4位に入賞しました。喜ばしいことですが、国境を超えてすべての人がお互いに尊敬し合うことができるのが音楽やスポーツの素晴らしさであるにもかかわらず、コンクールの優勝者には触れず、しかもそれを気に留めないまま報道してしまうのは問題です。フランスの政治家、アレクシ・ド・トクヴィルは著書『アメリカの民主主義』の中で、「エゴイズムは昔からあったが、個人主義は割と新しい言葉で、自分さ
え良ければいい、というのがこの考え方の悪いところだ」と書いていますが、日本では「日本人だけ良ければいい」という傾向が強いと思います。
環境問題は世界では非常に深刻に受け止められ、グレタ・トゥンベリさんをはじめとするZ世代といわれる若い世代が強い意識を持って取り組んでいますが、日本ではなかなか進まない。日本の中で起きていることへの強い関心と、世界で起きていることに対する無関心とが顕著に現れている。これが、政治に対する無関心、民主主義が健全に機能しないことにつながっていると思います。
東京にいると政治を身近に感じる機会がありますが、地方で育った少年少女には、国政と自分たちを結び付ける機会はほとんどない。私は福岡県北九州市の出身ですが、生徒会に自治権はなく、在学中に校則変更などの提案が通ったことは一度もありません。統治機構や仕組みは理解していても、民主主義の主体者として自分たちがルールをつくるという経験をしていない。学校教育の現場で一定程度は生徒の自治を認め、この延長線上に国政があるということを理解すべきではないでしょうか。
また、社会の中で「市民」という概念が欠落しています。社会には個人、家族、隣近所、学校の校区、区、市、都道府県、地方、そして国、さらにグローバルなレベルがあり、それぞれに細かく秩序が形成され、連動していて、どの
レイヤーが機能しなくなっても日常は成り立たない。個人と国家の間には市民社会というレベルがありますが、市民社会は個人の利害、国家の利害と対立することもある。市民的であることと国家的であることはどちらも公共ですが、私たちは自らが生きている狭いコミュニティの中で考えます。
さらに、私たちは多様性を重視しようという世の中で生きていますが、みんなで一つのルールを定めるときには多様性が大きな問題になります。日常的な対人関係で、相手を尊重しつつ何らかの合意に至るという実践の積み重ねが雑になると、民主主義はうまくいきません。不本意に論破されたり、議論されないまま多数決で押し切られて決まったルールは持続しないし、非常にストレスが溜まります。多くの人が心地良く生きていくためには、たとえ自分が不本意で
あったとしても何らかの形で納得し、そのルールを守れるようなプロセスを踏まなくてはならない。多様な社会が一つのルールを決定し、守っていくとはどういうことなのかを考えることが必要です。
低賃金・長時間労働は社会に悪い影響を及ぼし、経済的にも悪循環に陥って、さらには政治参加する余地をも奪っている。民主主義を創るには、さまざまな問題を個人で抱え込まずに、社会的にどのように解決すべきか、ルールを変
えるべきかという発想をもって取り組める場が非常に重要です。
私は、分人(ぶんじん)―一人の人間は複数の人格を備えている―という考え方を提唱しています。対人関係や社会的関係をコントロールし、自分が好きな分人の比率で生きるにはどのようなルールが必要なのかを考える。加えて環境という変数もあります。仲の良い友人と温泉旅行をするのは居心地が良いが、極寒の地にいれば幸せな気持ちにはならないし喧嘩もするかもしれない。環境問題が深刻化して過酷になれば、人間関係に影響する可能性は大いにあります。
終身雇用制が成立しなくなり、副業化が語られるようになってきました。自分はこの道しかないと決めてしまってそこで挫折すると、その先に進むことはなかなかできません。しかし、自分の人生を複数のプロジェクトとして把握すれば、ある意味でリスクヘッジになる。対人関係や環境によっていろいろな自分がいて、そのすべてが本当の自分で、それは入れ替えが可能であり、その比率をコントロールできることが「自由」であるという発想が重要ではないでしょうか。自分と自分以外の存在、社会を、どのように結び付けていくのかという経路、あるいは回路を丁寧に考え、そしてこれまでの社会の考え方を修正しながら、民主主義を機能させていくことが必要だと思います。
パネルディスカッション
「社会課題解決・新たな価値創造のために経済はどう貢献すべきか」
「社会課題解決・新たな価値創造のために経済はどう貢献すべきか」
熊野 英介 さん
渋澤 健 さん
河口 眞理子 さん
渋澤 健 さん
河口 眞理子 さん
社会的動機性に基づく資本主義社会へ
河口 健全な民主主義の形成におけるフィランソロピーの役割について、経済の視点からディスカッションしていきたいと思います。社会課題の解決や新たな価値の創造を経済としてどのように貢献ができるかについて、まずは、それぞれのお考えをお聞かせください。
熊野 英介 さん
熊野 地球の適正人口は一説によると50億人と言われていますが、すでに1987年に達していて、あと10年で85億人になるとされています。2050年には100億人を超え、そのうちの40億人が水不足になる。さまざまな統計や試算から地球を見ると、今はまさに、地球の制約条件が顕在化した社会へと突入していると思います。一方で、人間の拡張は止まることはありません。人類史上初めて「地球の制約条件」と「人間の拡張性」がぶつかる時代を迎えていると言
えます。
地球の制約条件が突きつける資源の枯渇や天候変動による農作物への影響は、調達リスクを高めますから、企業は、仕入れと生産はローカルで、サービスはグローバルでという「グローカル企業」にシフトしていくと思います。その中で、ローカルの「社会的動機」からしか生まれない「ローカルソーシャルビジネス」に、この時代を乗り越えるヒントがあると考えています。
「人間の社会性」は、経済を循環させる動機になります。2009年に設立した信頼資本財団での融資(※1)や助成活動(※2)、アミタ社によるごみを出すという社会性から新たな関係性を創る「めぐるステーション」(※3)の取り組みから、人々の社会的動機で経済が回ること、社会性をもとにした豊かな関係性は、新たな価値を生むことを確信しました。生活が変われば、商品が変わる。商品が変われば企業が、企業が変われば産業が、産業が変われば社会が、社会が変われば意識、意識が変われば生活が変わるという、好循環モデルが生まれます。そこに、自然環境への配慮、障がい者への支援など社会的な購買行動が加われば、民主主義的な資本主義を実現することが可能になるのではないでしょうか。
地球の制約条件が突きつける資源の枯渇や天候変動による農作物への影響は、調達リスクを高めますから、企業は、仕入れと生産はローカルで、サービスはグローバルでという「グローカル企業」にシフトしていくと思います。その中で、ローカルの「社会的動機」からしか生まれない「ローカルソーシャルビジネス」に、この時代を乗り越えるヒントがあると考えています。
「人間の社会性」は、経済を循環させる動機になります。2009年に設立した信頼資本財団での融資(※1)や助成活動(※2)、アミタ社によるごみを出すという社会性から新たな関係性を創る「めぐるステーション」(※3)の取り組みから、人々の社会的動機で経済が回ること、社会性をもとにした豊かな関係性は、新たな価値を生むことを確信しました。生活が変われば、商品が変わる。商品が変われば企業が、企業が変われば産業が、産業が変われば社会が、社会が変われば意識、意識が変われば生活が変わるという、好循環モデルが生まれます。そこに、自然環境への配慮、障がい者への支援など社会的な購買行動が加われば、民主主義的な資本主義を実現することが可能になるのではないでしょうか。
※1 融資:これまでの融資実績は、38団体・52件、1億1,157万円。焦げ付きはない。
※2 助成活動:寄付者が共感する事業を寄付先として選び、同財団が助成する仕組み。10年間で10億円以上の助成を実施。
※3 めぐるステーション:ゴミを出すという社会性と、万人が集うアクセスポイントを結びつけることで経済が循環するかを実証。
※2 助成活動:寄付者が共感する事業を寄付先として選び、同財団が助成する仕組み。10年間で10億円以上の助成を実施。
※3 めぐるステーション:ゴミを出すという社会性と、万人が集うアクセスポイントを結びつけることで経済が循環するかを実証。
ESG投資が生み出す社会の好循環
渋澤 健 さん
渋澤 投資家の立場から時代の流れを見ますと、日本フィランソロピー協会が事業をスタートした1991年にはバブルが崩壊。2003年はCSR元年と言われ、企業の社会的責任が問われるようになりました。そして、2006年頃からESGという考えが入ってきました。ESGとは「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の頭文字を取ったもので、投資家が投資先を決定する際に重視すべき要素として位置づけられています。企業は、財務的な価値だけではなくて、非財務的な価値の情報を開示し、投資家がそれをスクリーニングし、投資するかを判断します。
そして今、ポストESGのトレンドが出始めました。企業は、非財務的な価値を情報開示するだけでなく、環境や社会へのインパクトを測定しているか、そしてそれを目標設定しているかという点を問うという考えです。このインパクトを数値化して、企業の会計制度で表現しようという流れも出始めています。
ESGのポイントは、企業統治への考え方にあります。一つは、シェアホルダーである株主が、投資先の企業のガバナンスに目を光らせ、環境と社会への配慮を持続的な企業の価値として評価する点。そしてもう一つは、株主にも責任があるという考え方です。投資するだけでなく、自分が暮らしている社会や環境に対して、企業が利益を上げられるような社会行動をするべきだという点です。このESGの考えこそ、社会の好循環を作り出すのではないかと考えます。
この好循環は、社会の成長や豊かさにつながるわけですが、何をもって豊かさを測るのか。30年前ならGDPだけで測ることができたかもしれませんが、今では、さまざまな尺度があり、個々の問題でもある。結局は、資本主義や民主主義といったシステムが問題なのではなく、システムの中にいる一人一人が良識をもっているのか、何を目的にしているのか、どう意識して行動するのかが、新しい社会を構築するものだと思います。
そして今、ポストESGのトレンドが出始めました。企業は、非財務的な価値を情報開示するだけでなく、環境や社会へのインパクトを測定しているか、そしてそれを目標設定しているかという点を問うという考えです。このインパクトを数値化して、企業の会計制度で表現しようという流れも出始めています。
ESGのポイントは、企業統治への考え方にあります。一つは、シェアホルダーである株主が、投資先の企業のガバナンスに目を光らせ、環境と社会への配慮を持続的な企業の価値として評価する点。そしてもう一つは、株主にも責任があるという考え方です。投資するだけでなく、自分が暮らしている社会や環境に対して、企業が利益を上げられるような社会行動をするべきだという点です。このESGの考えこそ、社会の好循環を作り出すのではないかと考えます。
この好循環は、社会の成長や豊かさにつながるわけですが、何をもって豊かさを測るのか。30年前ならGDPだけで測ることができたかもしれませんが、今では、さまざまな尺度があり、個々の問題でもある。結局は、資本主義や民主主義といったシステムが問題なのではなく、システムの中にいる一人一人が良識をもっているのか、何を目的にしているのか、どう意識して行動するのかが、新しい社会を構築するものだと思います。
河口 眞理子 さん
河口 2006年にPRI(責任投資原則/Principles for Responsible Investment)が提唱され、環境・社会・企業統治の要素を投資の判断に加味するようになりました。儲かる、損をしないではなく、長期的な企業価値を見極めるために、人権問題、環境問題などに企業としてどう向き合っているのかを問う。場合によっては利益が出ていても製造販売を許さないような、そんな社会に変わってきていることに気付くことも重要だと思います。
「豊かさ」「利他」から考える新たな民主主義
河口 では、「豊かさ」とは何でしょうか。また、「利他」についてはどのようなお考えをお持ちですか。
渋澤 「豊かさ」とは、「自己実現」ができている状態のことを指すと思います。そして、その自己実現というのは、一人ではできず、さまざまな“個”がいるからこそ、その関係性の中で自己実現ができるわけです。「利己」と「利他」ですが、この二つは相反するものではなく、「利己」に時間軸を刺すと、「利他」があると考えます。利他があるからこそ、利己に戻ってくるというように、ぐるぐる回っているものだと思います。
熊野 利己や利他の考えは、個人の中のダイバーシティだと思っています。つまり、利己的な私もいるけど、利他的な私もいる。個人の中に無数のダイバーシティがあって、それが自分の中で身体的に、感覚的に、経験的に、ここは利他の方がいいとか判断している。自分の考えというのは、「関係性」が大きく影響しており、豊かな関係性が利他的な考えを生むと思います。他者との関係を崩さない範囲で、自分の欲望をいかに満足させるかということを考える時代だと思います。
河口 人々の欲望は、消費意欲の喚起として扱われ、ビジネスモデルを築いてきた部分もあると思います。これからの新たな民主主義社会を考えた時、この欲望をコントロールすることが大事になるのでしょうか。
渋澤 欲望があるということは、現状に満足してないということ。未来志向がそこにはある。だから、「欲望は悪である」となると、その社会は新陳代謝がなくなると思います。新陳代謝がない社会は、衰退します。欲望というのは自然なことなので、そこにその人間の価値観を入れないほうがいいと思います。
熊野 私も同意です。SDGsを完璧にする企業ばかりになったらつまらない。完璧でない点や矛盾があるから、サーキュラーを生むのです。社会を攪拌する要素は、戦争騒乱、自然災害、それと交易の三つ。平和的に価値を攪拌できるのは、交易しかないのですから、その余地を残しておく必要があると思います。
河口 本来の豊かさとは物質的豊かさだけでなく、関係性の中で生まれる内的幸福であり、それは経済的な豊かさとは実は大きく異なるが、こうした新たな価値観が生まれつつある。こんなところに民主主義のリニューアルのヒントがあるように思いました。きょうの議論は、まだ多くの方にはピンとこない部分もあると思います。ただ、これまでもそうでしたが、今は少数派の考えでも、いずれ浸透し、当たり前になる時代が来ます。一方で、新しい考えや手法が登場し、これまでの成功モデルが通用しなくなることもあります。次のサーティーイヤーズはどうなっているのか。期待とエールを込めて、ディスカッションを終わりたいと思います。きょうはありがとうございました。
「フィランソロピー始動30周年記念シンポジウム開催報告」おわり