◆パネルディスカッション
子どもたちに引き継ぐ社会を創造する企業・個人のあり方とは
矢崎 和彦(やざき・かずひこ)氏
株式会社フェリシモ 代表取締役社長
ひとつひとつの小さな成功が利他の心を育む
私が経営するフェリシモは、神戸が本社の通信販売会社です。扱っている商品のほとんどがオリジナルで、ファッションアイテムや生活雑貨などを多数作っています。それぞれの商品の開発と販売にはお客様の数の力、そして思いの力が込められています。その大きなパワーを商品開発だけで終わらせていいのかと思った時期もありました。
そして環境問題が大きくクローズアップされた1990年頃に、初めて商品ではなく、森を作ろうと思い立ちました。「お客様と一緒に、森林の再生をやりたいのです」ということで「フェリシモの森基金」を呼びかけました。1口100円で、毎月続けてもいいし、1回だけでもいいという仕組みですが、この初めての試みに対し、あっという間に3万、4万の人が反応してくれました。これは今日も続いていて、のべ350万人を超える方々から3億5,000万円のお金が集まり、約2,565万本の植林を行いました。
17年前の阪神淡路大震災の時は、ちょうど大阪にあった本社を神戸に移そうと計画している最中でした。結局、当初の予定より数カ月遅れて、9月に神戸移転を行いましたが、あの時は全国から支援の方が来てくださり、また私たち自身も神戸支援をずっと続けてきました。
今回の震災も、息の長い支援の仕組みが必要だと考えました。特に一番取り組みたいのが生活復興と産業復興のお手伝いです。後者については、幸い、フェリシモにはたくさんのお客様がいて、いろんな商品を買って下さる仕組みがあります。すでにいくつかの取り組みをしていますが、たとえば普段販売しているセーターを東北のお母さんたちの手で装飾していただき、それを若い人の読むファッションのカタログに載せて販売しました。価格は高くなるのですが、ものすごい数が売れました。多くの生活者のみなさんは、こちらの差し出す提案の仕方によって、心を開いてくださるのだと思います。
また社員の反応も変わったと思います。震災翌日、午後から役員会議を開いて対応を話し合う予定にしていました。私が会議室に行くと、すでにかなりの数の社員が集まって、部屋中に張り付けたホワイトボード一面に、これからなにをするのかを書き出していた。私はそれを見て本当に感動しました。20年以上も前に「事業性、独創性、社会性の融合」というコンセプトを提示したとき、「社長はなにを言い出すのか」という雰囲気だったのですが、ひとつひとつの小さな成功でお客様が喜んでくださり、形になるプロセスを共有していくことで、人間が本来もっている利他的な心が育まれていったのだと思います。