20周年記念フォラム
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◆パネルディスカッション
子どもたちに引き継ぐ社会を創造する企業・個人のあり方とは
堀田 力 氏 木全ミツ氏 矢崎和彦氏 木川 眞 氏 櫻庭英悦氏
木川 眞(きがわ・まこと)氏
ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役社長

大胆な寄付活動で、
今すぐに必要な社会インフラを作る
 東日本大震災では宅急便を再開した際、我々が想像していた以上にお客様には大変喜んでいただきました。我々が救援物資やお荷物を届ける行為自体が、被災地の皆さんが社会から孤立していないことを確認するきっかけになったのだと。宅急便がどれだけ生活の一部になっているかということの証左だと思います。
 震災当時、ヤマト運輸の社長であった私の役割は、1日も早く業務を復活させることでした。被災3県には約1万人の社員がいますが、5名を亡くし、車両60台が使いものにならなくなり、約300の営業拠点の6%が使用不能でした。
 そんな状態を乗り越え、震災後10日目には業務を再開。最初は営業所止めにしたのですが、当然のように社員はお客様のもとへ配達しました。貴重なガソリンを有効に使いながら、あるいは歩いてでも届けたんです。
 また本業の回復とは別に、社会的使命として、被災地支援活動を行いました。1つは救援物資の輸送協力です。被災地の複数の場所で自らも被災者で ある社員が自分たちの判断で支援活動をしていることを知ったときはうれしかったですね。本社もそれを支援する形で、全国から200台の車両とロジスティックスの専門家を含め500人を送り込み、救援物資の滞りを解消に協力しました。2つめの支援は寄付活動です。創業者の小倉昌男が経営していた頃か ら「世のため人のため」と言っていたことを被災地の現場でも見事に実践した社員たちは、次に会社は何をするのかと固唾を呑んで見ていたんです。ですから中途半端なことはやらない。やるなら大胆に、宅急便1個につき10円を寄付することを去年4月に発表しました。年間140億円くらいの規模になり、年間純利益ベースで約4割を寄付するという大規模な計画です。
 私がまず社内でこの発表をしたとき、幹部社員全員は万雷の拍手でしたし、社員も喜んでくれました。また、株主総会でも趣旨にご賛同いただき拍手を頂戴しました。我々がこれまで積み重ねてきたことが、世の中に認めていただけた。それはありがたいと思います。
 今回の寄付の最大のポイントは、まさにいま必要な支援をすばやく、見える形で効果の高いものに集中して投下するということです。したがって寄付先は水産業、農業復活のための資金として、また学校・病院・保育園など、まさに必要な社会インフラのみと最初から宣言しました。
 ところが寄付活動の最大のネックは税金でした。140億円以上になる寄付金は1円も無駄にせず被災地に届けたいですし、一部でも税金として欠けることはどうしても避けたかった。
 財務省に相談にいきましたら、答えはやはり有税でした。我々は粘り強く丁寧に相談しました。すると早い時期にヤマトの志を理解してくれて、小倉昌男が作ったヤマト福祉財団を公益財団法人に変えて「指定寄附金」の指定を受け、そこに寄付することで全額非課税が実現しました。日本赤十字社と同じ位置づけの寄付として認めてもらえたということで、ある意味、非常に画期的です。
 このことが、日本における民間企業の活力を結集した新しい寄付文化を作るきっかけになればいいと考えています。それが今回の寄付活動を総括したときの私の印象です。